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おばーを喜ばせたい

​Story

「母さんの屋敷と畑はどうなってるかね?」

 

僕のひいおばあちゃんが亡くなって、ちょうど一年が経った頃、僕のおばあちゃんが僕にそう話しかけてきました。

 

その言葉が二~三日、僕の頭から離れずにずっと気がかりでした。

 

おばあちゃんは母を亡くし、今は誰も住んでない育った家がどうなっているのか、気にしている様子だったので、二人でおばあちゃんの実家へと向かいました。到着後、しばらくすると・・・、

 

「この屋敷と畑、このままではジャングルになってしまう。誰か・・、せめて屋敷だけでもいいから管理してくれないかな・・。」

「母さんが女手ひとつで三人の娘を育てながら汗水流して、やっと・・、やっと手にした屋敷と畑。母さんは天国で残念な気持ちで居るはず・・・・母さん申し訳ない。本当に申し訳ないです・・・母さん、ごめんなさい。」

 

湿気の匂いが染みた古い畳に座り窓越しの錆びた格子の奥の畑を眺めながら、古い湯呑みをぎゅっと抱きしめるように持ちゆっくりと、ゆっくりと黄金色したお茶を口にした後、湯呑みをひざの上にのせたまま、僕のおばあちゃんは、そっと独り言を口にしました。

人を喜ばせてあげたい

その2日後、僕はピカピカな新品の草刈り機を軽トラックの荷台に載せ、おばあちゃんを悲しませたくない、さびしい気持ちにさせたくないとの一心だけで、軽トラックのハンドルを握りながら、ひいおばあちゃんの家へと、少し焦る気持ちで向かっていました。

 

家に着くとドアの鍵を開けることもせずに、すぐに屋敷内の草刈り作業に取り掛かりました。手入れ終了後、雑草で隠れみえていなかったツツジや椿、サルスベリの木々、野バラで、屋敷を取り戻す事が出来ました。

 

その翌日、僕はおばあちゃんを無理やり助手席に座らせ、また、ひいおばあちゃんの家に向かいました。

 

車中、おばあちゃんは、荒れた実家を想像し行きたがってない心境でした。僕の気分は真逆で、僕が子どもの頃の記憶を思い出し、少しほがらかな気分でした。

 

昔はおばあちゃんがハンドルを握り孫である僕を助手席に座らせ、僕が「海だ!海だ!」とはしゃいでましたが今日はおばあちゃんが「綺麗な海だね。」と言っている。

そのような思い出を浮かべながら、右手にみえる海岸線の国道を車で一時間走らせました。

 

到着し車を降りた途端、おばあちゃんが口にした言葉は「母さんが戻ってきたみたい!、綺麗に元の姿に戻っている。」

そして、僕に何度も「ありがとう、ありがとう。」

と、他人ではない孫である僕に手を揃えながら、そして、僕の両手を強く握り締め、こういうのです。

「母さんはやっと、ほっとしてくれているはず。」そしてまた、こう言うのです。

「本当にありがとう」と・・・。

その時のおばあちゃんの喜びは僕の喜びであり、その笑顔は、僕の記憶に生涯残ると思います。

 

すると、おばあちゃんは会話の中で、こういう質問を僕にしました。

 

「あなたが小さい頃、畑で採れたジャガイモを美味しい、おいしいとよく食べていたことを覚えている?」、「畑に石を投げて遊んでよく注意もされていてよ。」と・・・、

僕の記憶がよみがえることはなかったです・・・・笑。

 

その日は、よほど気分上々なのか、一日中、おばあちゃんの年少時代の母と娘の昔話や僕との思い出を宝物のように話してくれました。

おばあちゃんの家に着き、車を降りる際に、「今日は掃除をしてくれた実家に連れていってくれてありがとう」そう言って自宅に帰りました。

 

しかし、僕には心残りになることがありました。

綺麗になった屋敷に喜んでいるおばあちゃんの笑顔よりも、畑の方向へ目線を向けないおばあちゃんの姿が気になっていました。

 

それもそのはず、畑はまだジャングルの状態でしたので。でも、その時は既に、僕の心の中では、気持ちが固まっていました。

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人の笑顔が
もっとみたい

それから毎週土日、仕事が休みの日を利用して、畑へ通い、雑草を刈り、人の太もも程に成長した雑木を何本も何本も伐採し、「いつまでやるんだろう」と、時には嫌な気持ちになったり、意地になりながらも、おばあちゃんをもっと喜ばせてあげたい!、もっともっとたくさん笑顔にさせたいとの思いで通いました。

(その頃は、畑の風景を取り戻す目的だけで、そこで農業をする気持ちは全く全然ありませんでした・・)

 

半年以上経過した頃、ようやく畑の土が見え、畑らしい姿になってきました。

 

早速、再びおばあちゃんを連れひいおばちゃんの家に向かいました。予想通り、おばあちゃんは、また大変喜んでくれました。その日も気分上々で畑の中を歩き回っていました。

 

「ここにパイナップルを植えていた、ここは人参、ここはラッキョウ、ジャカイモ」とか言いながら二人で楽しく話しながら過ごしました。その日もおばあちゃんを自宅へ送り、僕も自宅へ戻る中、僕は畑でのおばあちゃんの言葉と表情を思い出しました。

おばあちゃんはこう言っていたのです。

 

「母さんの畑は母さんが私たちを育てる為に、一生懸命耕してきた畑だから、だから土がいいんだよ。だから、何をつくっても美味しい作物が採れるんだよ。でも、もう、あの美味しいジャガイモも、人参も、パイナップルも食べることはできないね。母さんは亡くなってしまったのだから・・・仕方ないよね・・・・・・。」

 

「お母さん今まで本当にありがとう。」

素人の決意と覚悟

その瞬間、そこから僕の農業の一歩が始まりました。

 

始まりは、3坪のスペースにジャガイモ植え、自分でつくったジャガイモを食し、喜びと感動を同時に感じ、その喜びと感動を面積で表すと、次は5倍の15坪となり、15坪が75坪と、ほぼ×5×5倍と一気に農業の魅力へと吸い込まれていきました。

 

気がつくと、畑全体の半分200坪になった頃には、自分の喜びよりも、人に食べてもらい「人参、最高に美味しいよ、またちょうだいね」、「採りたてレタスは凄いね!」など、僕でも、人を喜ばすことができるんだ!感動を伝える事ができるんだと実感が自信へと変化してきました。

ありがたい差し入れ

その頃でした、親戚の方から使っていない耕運機があるからそれを使いなさいと耕運機をもらいました。

 

欲しかったけど、当時は買えない経済事情だった僕には憧れの耕運機を無償で頂けた時の感謝、その感謝の気持ちは一生涯忘れません。

 

早速、機械に油を差し軽く手入れを施し、古いエンジン音が畑にカタカタ・コトコトと響きました。古いエンジン音にベルトがきしむ音、アクセルレバーを操作する度にバネの錆び原因でキュッキュと出る不可思議な可愛らしい金属音が心地良かったです。

 

あれは本当に心地よかった。自慢の兵器でしたよ!

 

20年選手の耕運機でも、僕にとっては最新技術を取り入れた最新型の最先端次世代農家の気分でしたよ・・。

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温故知新

その最新技術を屈して、残り200坪を一気に耕そうと考えている頃、親しくしているお坊さんから、アドバイスされました。「ひいおばあさんは、鍬一本と、へら一本でその畑を何十年も耕し続けてきたんだよ。」

 

「温故知新・・・。」、彼が、僕に言いたい事を悟った僕は今まで同様、鍬一本と、のこぎり一本で残りの面積を開墾することにしました。なぜなら、より深く、より一層、感謝の気持ちを持ち続けていけるように。

 

それから1年弱、荒れていた畑は荒れていた頃の面影はなく、ひいおばあちゃんが今でも毎日畑に居るかのような景色になっています。

 

今は、ひいおばあちゃんが作っていた作物を、おばあちゃんから聞きながら根菜、葉野菜、果樹など、約40種類程栽培してきました。もちろん全ておばあちゃんには食べて頂いてもらいました。

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“​信頼はお金では買えない”

感謝

「この屋敷と畑、このままではジャングルになってしまう。」と聞いてから5年の月日が過ぎた現在、新たに農地を購入し農業を展開しております。

 

しかし、今日に至るまでの道のりは、決してきれいに舗装整備されたアスファルトの道ばかりではありませんでした。

 

農地を確保するにも、よそ者である僕は地域の方々から信頼を得ないといけません。

信頼はお金では買えませんし、手早く獲得できるものでもないですよね。

 

その地域の方と知り合い、農業への思いをまっとうに伝え、行動に示して育まれるものが信頼なので。

 

僕は本当に運がいいと思います。人に恵まれ過ぎるぐらい恵まれました。

 

振り返ると楽な道ではありませんでしたが、近道(最短距離)で今日まで来れたと思っています。

評価

ある日、僕の主力として生産しているトウモロコシを、兄貴として慕っている先輩農家の方へ持って行き、「食べて点数をつけて欲しい」と話しました。

 

そして、トウモロコシを手に取りしばらくじっと眺め、そして皮をむき獣が喰いつくようにガツガツと一気に食べ終わり、「うん!、美味い!」

と僕が普段から尊敬している兄貴は一言だけ・・・・。

 

すると、トウモロコシを3本程手に取り、隣にいる別の先輩農家さん(兄貴にとっての先輩農家)に「美味いから食べて下さい」と言い手渡しました。

 

えっ・・それだけ?

「点数聞きたいんだけど」と僕がせがむと、兄貴の先輩は僕へ「あなたの兄貴は今、美味い!と言ったよ」

 

そうなんです、100点が満点だとすると、その次は数字から漢字の美味いに代わると教わりました。・・・・・?笑

 

遅い!、へたくそ!早くやれ!、美味くない!

普段そう言っているいつもの兄貴から「美味い」をもらった時には力が抜けるくらい嬉しかった。

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天の時

僕にとっての農業という舞台は、まさに天の時・地の利・人の和であると思います。

 

今、どの分野においても、人手不足や後継者問題が深刻で、僕の地域でも同様な課題がテーブルの上に解消されぬまま重く積み重なっており、そればかりか、その議題は日増すごとに分厚くなる一方です。

 

手に肉刺ができ、そのま肉刺が潰れ手袋に血がにじみ、それでも、泣き言さえ言わず鍬一本で必死に田畑を耕し、たくましい日本農業の礎をつくり今日まで支え、守りてこられた力強い先輩農家さんであっても、人には体力的な限りは、もう目の前まで迫っている現状です。

 

いや、目の前はとっく通り過ぎ・・・・、もはや気力のみで現役を貫き通していることだと感じます。

 

先輩農家さんの気持ちを汲み取れば、先輩方の本来あるべき明日の姿は、頭には麦わら帽子をかぶり、無造作に入った手袋がズボンの後ろポケットから半分だけ見え、真新しいタオルを首にかけ、田畑の脇に腰をおろし、手持ちぐささで、その辺に生えた雑草を左手でむしりながら、

右手では、ぬるくなったお茶が入った湯呑みを持ち、畑の遠く向こうにいる僕らのような若手や後継者の働きぶりを眺め、時に唇を一文字に伸ばし鼻で笑い、時にはしかめっ面で睨みつけたり、じっくりとくまなくのんびりと偉そうに・・・・・・・、指導のための観察?笑、している姿を描いていると思います。

 

そんな光景であることがごく当たり前の姿だと僕自身そう思ってます・・・。

 

今すぐに率先して解決の糸口を、自分自身の使命と捉える天の時であると意気込んでます。

地の利

僕の畑のすぐ横には、大きな海があり心地いい海風がそそぐ度に、ありがたい豊富なミネラルが運ばれ、そのミネラル成分が天使のように畑に舞い降りてきます。

 

作物は毎日そのミネラルをほおばり三度の飯として頂いているように思えます。

また、豊富な湧水にも恵まれ、これこそ地の利だと確信してます。

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人の和

それ以上に、何よりも大切な大切なものが!

 

今、僕の周りには、多くの先輩農家、農業に携わる職業の方、ごちそうさまと評価してくれる方、支えてもらっている多くの人の和に包まれています。

 

おかげ様です。

立ち位置が変わると基準も変わる

今、気になること・・MOTTAINAI

 

僕は、現役会員としては40歳までという年齢制限のある団体に20年間所属していた頃、その団体がMOTTAINAI運動として提唱しておりました。

当時は、MOTTAINAI(もったいない)という言葉に熱心に痛感という程までには感じておりませんでした。

しかし、農に携わることによって改めて、その言葉が重要なのかと、提唱して日本はもちろん、全世界の人々へ伝え意識の変革を起こしていかないといけないと痛感してます。

 

農産物を生産・出荷する基準となるサイズの枠から外れた規格外の作物、また、外観に少しキズがあるだけで規格からはじかれたものなどの多くは廃棄されています。

 

豊かと言われている日本では、この基準については賛否両論なので、ここで唱えるつもりはありませんが、観点をMOTTAINAIと置き換えるとどうでしょうか。

 

食糧難に苦しむ国、栄養失調や飢餓によって誕生日を一度も迎えずに亡くなる子供達やその子供を亡くした親たちがいる国、また、戦後直後の日本など、わが身がその立場になっても、いまの意識のままでいられるのか・・。

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日本語は素晴らしい

日本人には、この日本には、この国にしかないとても素敵な言葉のコミュニケーションツールがあります。

 

「いただきます。」、「ごちそうさま。」、そして、何よりも優しい人を想うという言葉「MOTTAINAI。」

 

もし良ければ・・・今夜、食卓を囲みながら少しの時間でも話題にしていただけると御の字です。

 

もちろん僕自身も農業に関わる人間として「いただきます。」「ごちそうさま。」と言っていただける農産物をつくっていくことをお約束致します。そして、「MOTTAINAI」と言う言葉を聞く事がなくなるいい時代を農業を通して自らつくっていきたいと思います。

 

僕のおばあちゃんが、よくこう言います。

「徳を積みなさい。」、「時間も苦労も惜しまず徳を積みなさい。」と・・・。

 

僕にとっての農業の魅力とは、食べ物には人を笑顔にさせる魔法があるところです。

 

いただきますは感謝を育む心にかわり、美味しいは笑顔に変わり、ごちそうさまは農家の原動力に変わり、そして、MOTTAINAIは優しさに生まれ変わる。

お約束

今の僕自身の課題である「食と農」は、今やっと歩み始めたばかりですが、多くのや経験を積み、多くの農業技術を身につけられるよう

 

これからもずっと!

これからはもっと!

 

農業に励んで参ります。

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